きみを例にたとえてみよう。きみの名前はロジャーズだったね? よろしい、ロジャーズ、きみは四つの方向にのびている時空間的存在だ。きみは六フィートたらず、幅はおよそ二十インチ、厚みは十インチほどだな。時間では現在の時空存在より過去へたぶん一九一六年頃までのびており、そこではここで時間軸と直角になる断面を見ると、現在のものと同じ太さだ。いちばん端は赤ん坊だ、すえたミルクの匂いをさせ、その朝食でよだれかけを濡らしている。反対側の端には、たぶん一九八〇年代のどこかに老人が横たわっている。
われわれがロジャーズと呼ぶ時空存在を、長いピンク色の芋虫と考えてもらおう。長い歳月にわたって存続し、一端は母親の子宮に、反対側の端は墓場に入っているものだとね。それはここでわれわれの知覚できる範囲をこえて広がっているので、われわれは断面を単一の分離した個体と理解する
しかし、それは幻覚なんだ。このピンクの芋虫には物質的連続性があり、長い年月にわたってのびている。実のところ、この意味では、全人類に物質的連続性がある。ピンクの芋虫は、別のピンクの芋虫から分かれているのだからな。
–ロバート・A・ハインライン 「生命線」
人が作ったPowerPointのスライドを見て、ふと思うのは、「スライドは3次元の断面像である」という考え方だ。この考え方が念頭にあれば、もう少し見やすいスライドを作れるのではないかしら。
スライドの統一フォーマットの重要性
統一フォーマットの重要性はよく言われている。マイクロソフトのエバンジェリスト、西脇資哲氏も「あらゆる要素において、『ちぐはぐ』という印象を与えてはいけない」と仰っていた。
ハインラインの短編「生命線」で、ピネロ博士は自身の研究成果を説明するために、人間を時間軸上に横たわる芋虫としてイメージさせた。その現在における断面が、目の前にいる個人である。
同様に、PowerPointのスライドをつなぎ合わせて、一つの3次元立体を構成してみよう。このまとまりは「プレゼンテーションの主張内容」全体を意味する。スライドがもし30枚あるなら、その1枚1枚は主張内容の断面像になる。
芋虫の断面像の1枚が失われたり、順番が入れ替わったりしていたら、見る者は違和感を感じるだろう。「繋がらない」印象を与えるに違いない。
同じように、スライドは丁寧に順序よく断面像としてつながっていなければならない。
統一フォーマットが重要なのはそのためだ。立体を構成して不動のはずの見出しが脈絡なく動いたりすれば内容よりも注意をひいてしまう。
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